最終更新日 2014/05/04
研究
R研究室での研究
私たちR研究室では、非平衡・非線形現象を理論的に研究しています。みなさ
んの普段目にしている自然現象のほとんどは、学部の熱力学で勉強する熱平衡
状態とは程遠い非平衡状態にあり、学部の力学で勉強するような線形現象とは
程遠い非線形現象です。その意味で、私たちの研究テーマは身の回りの現象の
ほぼ全てと言ってもよいかもしれません。R研は、歴史的には、1960年代のソ
リトン発見の時期の創設されたプラズマ、流体、非線形場における非線形波動
の理論研究グループを出発点とし、その後研究対象をカオスやパターン形成な
ど非線形物理学の様々な分野に広げてきました。最近は、液体やソフトマター
のような、流れる(あるいは流れそうなのに流れない)物質の非平衡統計力学
に研究の軸足を移して、新しいテーマに取り組んでいます。以下に、最近の研
究テーマを紹介しましょう。
ソフトマターの非平衡統計物理学 (宮崎・宮崎・尾澤・ 池田)
みなさんの身の回りには、さまざまな「流れる物質」あるいは「流れそうで流
れない物質」があふれています。水などの液体、マヨネーズやペースト、砂山、
ゲル、ペンキなどがそれにあたります。いずれもありふれた物質ばかりですが、
最初に挙げた水以外は、液体とも固体ともつかない、中途半端なものばかりで
す。これらを総称してソフトマター(文字通り「柔らかい物質」のことです)
と呼んでいます。生物の最小単位である細胞も、時には固体のように形を保ち、
時には液体のように自在に形を変えるので、一種のソフトマターと呼べるかも
しれません。これらの物質の共通しているのは、密度が高く分子や構成粒子が
ぎっしりと詰まっているのに、結晶構造を持たずランダムな配置をしているこ
とです。流れそうで流れない理由は、まさにこのランダムで高密度である点に
あり、いわば分子たちが交通渋滞を起こしているからであると言ってよいでしょ
う。このような状態を一般にガラス的と言います。私たちの中心的な研究テー
マは、流れる液体がなかなか流れなくなる状態へ変化する現象、いわゆるガラ
ス転移です。ガラスとは、普段みなさんが目にするあの「ガラス」のことです。
ガラス転移は身近な現象である割には、その正体は分からないことだらけで、
最近の物性物理学の大きな研究テーマとなっています。そもそも、液体のよう
に分子がランダムな配置を取っているのに、なぜ流れないのでしょう。こんな
素朴な質問に、現代物理学は明解な解答を持っていないのです。ガラス転移は
「転移」と名前が付いているのに、みなさんが知っている相転移のどの仲間に
も属さない不思議な現象なのです。物質に限らず、物事が複雑になってくると
動きが遅くなるということはよくあることです。問題が多くなりすぎると思考
が交通渋滞を起こして、思考停止となることがあるでしょう。このような問題
は情報科学ではありふれていますが、意外なことにこの情報科学もガラスの理
論と深い関連があるのです。 このようにガラス転移は、物理学のテーマとし
ては耳慣れないかもしれませんが、幅が広く奥が深い問題なのです。そこで私
たちが目にするものは、分子達が一見ランダムに動き回っているように見えな
がらも、ある自然法則にしたがっている姿です。しかも、その自然法則が、ま
るでロシアの人形マトリョーシカのように、顕微鏡のレンズの倍率を変えるご
とに、その姿を変えているようなのです。私たちの研究室では、シミュレーショ
ンと非平衡統計力学のあらゆる理論的な手法を用いて、このミクロの世界の
「渋滞学」に挑戦しています。
非線形物理とカオス (福田・松山)
カオスとは,決定論的な(外部ノイズなしの)力学法則から生じる予測不可能な振舞いのことです。この不思議な振舞いは,実は自然界のほとんどの系が持つ性質です。微視的なレベルでは簡潔な物理法則で記述されている自然を複雑で多様な物にしているのもカオスです。カオスと言うと乱雑で手の付けられないぐちゃぐちゃしたものと言うイメージがあるかもしれませんが、カオスになったから必ずノイズ的・熱平衡的な振舞いをするとは限りません。むしろ,実際のカオスはその中に豊富な構造を内包している事が多いのです。
私たちは,非定常でダイナミックな空間パターンを作る物として大自由度のハミルトン系カオスに着目し,いくつかの状態の間を遍歴する運動が存在する事を示しました。保存系で単純に熱平衡に緩和するのではなく構造を作る現象は,水分子の水素結合ネットワーク,微粒子,自己重力系等に見られ,これらの理論的解明に役立つ物と思われます。
また,カオスを示す系の性質を理解するためには,一つ一つの個別の軌道を理解するのではなく,相空間そのものを理解する事が重要です。私たちは,漸近摂動法を用いて高次元カオスの相空間構造を解析的に明らかにする試みに成功しました。
進学を考えている皆さんへ
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ているのは、世界中の研究者仲間と知恵を出し合いながら新しい分野を切り開
くという、泥臭くもアクティブな共同作業です。誰に対しても全てをさらけ出
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